営業成績を問われた解雇
Q
営業成績を問われた解雇
入社して2年半。建材の販売担当。入社して3ヶ月は上司の指導を受けながら何社か工務店・建築会社を担当。その後、一本立ちして受け持ちの会社数も多くなった。
2年目から、担当していた会社の取引額が比較的多い会社を上司の指示で後輩に譲り、課長が担当していた会社の一部を引き継いだ。引き継いだ会社の取引額は縮小傾向であった。
4~9月の営業成績評価が10月20日に発表となり、私の営業成績がかなり悪いと叱責された。私は、「後輩に譲った会社と課長から引き継いだ会社を比較すると自分に不利な扱いであった」と反論すると、「顧客を他社に取られたではないか」「『毎月売上3,200万円、純利益300万円、粗利50万円を達成する(営業マン一律のノルマだった)』との誓約書を年初に提出したではないか」とさらに叱責された。
過去の会社の携帯を漏水で破損、他社に顧客を取られた、資材搬入現場で受災して労災認定となり休業した、ことで始末書の提出を求められ「次に同様な件が発生した場合、いかなる処分があっても異議を申し立てません」との一文を提出したことも持ち出され、「11月30日付けで解雇する、解雇理由は、営業成績不良であり、就業規則の『労働能力が著しく劣り、向上の見込がないと認めたとき』に該当する」と解雇通告された。
A
法的ポイント
就業規則の『労働能力が著しく劣り、向上の見込がないと認めたとき』を理由にした解雇は、有効・無効の判断は、「背景にあるもの」や「不良の程度」の見方・判断によってどちらもありうる。したがって細かく分析することが必要で、ケース・バイ・ケースの判断となる。
就業規則に規定が明確にされていない場合や就業規則が常に明示・開示されていない場合は、そのことのみで解雇無効と判断できる。
本人に問題点があるとしても、いきなり解雇することは過酷な処分として解雇無効となる場合もある。
労働契約法第16条(解雇) 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
労働基準法第89条九(就業規則作成及び届出義務と制裁の定め)及び第106条(法令等の周知義務 就業規則の掲示または備え付け)
刑事訴訟法に関連する「一事不再理原則(二重処罰の禁止)」によって、労働問題でも一つの事案で二重に制裁することは許されないことが、一般原則となっている。
- 判例
-
- セガ・エンタープライゼス事件(東京地裁決定H11.10.15労判770号):考課が絶対評価でなく相対評価のため、誰かは低い評価となることから、当人が著しく能力が劣り、向上が見込めないとまでは言い切れない。体系的な教育・指導で向上の余地があり、解雇無効。
- エース損保事件(東京地裁決定H13.8.10):長期雇用者の勤務成績不良を理由とする解雇は、単なる成績不良では足りない。他に企業から排除しなければならない理由と程度が求められ、50歳・53歳の労働者の解雇無効。
- 森下仁丹事件(大阪地裁判決H13.3.22):技能発達の見込がないとは言えず、解雇無効。
- 三井リース事件(東京地裁決定H6.11.10):既に何度か配置転換を行って対処してきたが、これ以上の配置転換はできないとした解雇は有効。
- 日本ストレージ・テクノロジー事件(東京地裁判決H18.3.14):再三の指導にもかかわらず勤務態度を改めなかったことから、解雇有効。
- 特定のポスト、上級管理職採用などの場合は、一般社員とは問われる水準が異なる判例がある。
アドバイス
相談事例の場合、(1)経験年数が2年半と短いこと、(2)入社して4ヶ月目から、一本立ちしたこと、(3)2年目から、担当していた会社が一部変更になり、顧客の質が低下したことなど、本人のみに責任を求めることに無理な面があると判断できる。
「顧客を他社に取られたではないか」という指摘は、価格競争でどこまで権限が与えられていたか、なども考慮すべきで、結果責任だけの判断は問題がある。
年初に、全営業マン一律の『毎月売上3,200万円、純利益300万円、粗利50万円を達成する』誓約書提出を求めたこと事態が、ノルマ設定のあり方として社会的な相当性、合理性を有するか疑問である。
過去の始末書提出は、「始末書」も懲戒に基づく制裁処分の一種であり、「一事不再理原則(二重処罰の禁止)」を加味して考えた場合、「いかなる処分があっても異議を申し立てません」との一文があるからといって、解雇という重い処分が相当となるものではない。
営業成績が劣っているとしても、「著しく劣っている」との判断には達せず、今後の向上も教育・指導によって期待できることから、解雇無効と言える。